フレイムエスカシャン サーガD 竜と少年 試し読み


サーガD表紙

プロローグ

 戦争とは横たわる理不尽であった。絶対的な暴力と、破壊と、死があった。繰り返される悲しみの中で人々は口を閉ざし、やがて沈黙が訪れた。

 そしてここにも、物言わぬ者が居た。
 それは骸だった。兜を割られ事切れた兵士に、蝶が群がっている。
 その傍らを二人乗りの騎馬が走り抜けた。まるで吹き散らかされるように蝶が飛び去っていく。 
「きれいだね」と騎上の〈少年〉は言った。まだ十にもならない少年は、夜空に消える蝶を指さして、後ろの〈君〉に聞く。
「あの蝶はどこへ行くんだろう」
 君は答えた。
「戦場の蝶は弔われぬ魂の化身といわれています。死者の魂は天に昇り、天の川にかかる橋を越えて冥土へと至る。だから蝶は星空へ行くのでしょう」
「では、父上や母上たちも今頃は蝶になって空を目指しているのだろうか? 兄上や姉上も?」
「滅多なことをいうのではありません。殿下の他にもまだ生き延びている方がきっといらっしゃいます」
 君はそう言いながら、姑息な嘘だ、と自分自身に毒づいた。城壁に吊された〈竜国〉の王族の遺体は十三と聞いている。少年の父、母、叔母、叔父、兄、姉、すべてを合わせた数と同じだ。彼も、いずれそのことをどこかで聞くだろう。
 少年も君とともに王城を脱出していなければ、十四体目として、同じ運命を辿っていたはずだ。
 ――フレイム・エスカシャンの竜に感謝を。
 君は竜主経の一節を唱え、手にした騎士盾に描かれた〈竜〉に祈りを捧げた。天の火により形作られる、影の竜。それはこの国の守護者であり――王族の中に潜むものでもあった。

 竜国の王族は生まれつき一頭の竜を宿している。自我の目覚めと共に生まれ育つ〈それ〉は、普段は心の奥底――無意識の中に封じられ眠っている。だが、ひとたび宿主の影に宿り、切り離されて自由を得れば、恐るべき力を持って敵を打ち倒した。
 空を飛ぶための一対の翼。鋭い牙とかぎ爪。口から吐き出される紅蓮の炎。成熟すれば一つの町を瞬く間に滅ぼすことも出来る、圧倒的な破壊の象徴。
 その力を持って、竜国は西大陸の統一をうたう〈帝国〉に抵抗しつづけていた。
 だが――竜は所詮、影だ。
 影が無ければ、竜は呼べない。
 そこに目をつけた〈帝国〉は新月の闇に紛れて、竜国の王族をことごとく襲った。周到に用意された襲撃に、竜国は為すすべも無かった。
 少年が生き延びたのも、幸運な偶然が重なった結果でしかない。
「先を急ぎましょう。夜は竜国の敵です。追い詰められる前に少しでも距離を稼がねば――」
 君の言葉に、少年は頷いた。
――この少年さえいれば、竜国はいつか蘇る。
 西大陸の全土統一をうたう獰猛な帝国はこの国の王族を全て殺し尽くすまでその手を止めないだろう。その手に落ちる前に、逃げ延びなければならないのだ。

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フレイム・エスカシャン サーガD
Flame Escutcheon ~炎紋章の盾~
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 それから数年が経ち、〈君〉は隣国の辺境にいた。
 漂泊の末にたどり着いた辺境の領主は、君たちにとても良くしてくれた。亡命貴族として君たちのことを受け入れてくれただけでなく、領地の隅にある使われていない屋敷を住む場所として与えてくれまでした。
 しかも、子どものいない領主は、〈少年〉のことをとても気に入っていた。ゆくゆくは養子として迎えて後継ぎにしたい、とまで言ってくれている。
 それが本気かどうかはわからない。
 だが、そうなればいい、と心から君は思う。
 そうすれば少年の身は安泰だ。誰が辺境の小領主を亡国の王子などと思うだろう。平和に暮らすことが出来る。

 長い逃亡生活の中で、君は少年を王家の遺児と思う以上に、大切な肉親のように感じていた。かつては少年を旗印に〈竜国〉を再興することも夢見ていたこともあった。だが今となっては、彼の命の安全の方が大事だ。
 彼は、魂を蝶に変えて星空を舞う危険など犯さなくてよいのだ。
 平和な中で成人し、地に根を張り、年老いて、荼毘の炎と煙とともに天に昇るべきなのだ――。

 だが、その思いはやすやすと打ち砕かれた。
『少年を養子に迎えたい』という発言を真に受け、自分の地位が脅かされることを危惧した領主の弟が、少年のことを「竜国の王子の疑いあり」と帝国に密告したのだ。
 領主を伴い、帝国の部隊が戸を叩く。
 君は平穏の終わりを感じながら、扉を開いた。

■FEとは

FE(フレイム・エスカシャン:Flame Escutcheon)は、ドラマティック・シミュレーションRPGをゲームブックで再現することを目的に作られた連作短編シリーズです。少しずつ舞台や部隊や時代を変えながら、剣と魔法の世界を戦い抜く物語が描かれます。ドラマを描くに適した『ゲームブック』という媒体で、いかに心踊るSRPGのシステムを構築するか、数名の作家が知恵を絞って執筆します。物語の行く末だけでなく、切磋琢磨する作家や作品の変化にも目を向けながら楽しんでみてください。

 

■FEルール(ver.D-1)

 主人公である〈君〉は、亡国の王子である〈少年〉を守り、その幸せを願う騎士です。君は騎士と君主という関係性を超え、少年に幸せな一生を過ごして欲しいと思っています。
 ただ、少年は〈君〉ではありません。彼の幸せが、君の思う幸せと一致するとは限りません。彼が何を望むのか、何を決断するのか、それは戦いの中で変動する、少年の自我次第なのです。
 この物語にはサーガAの名声値・サーガRの求心力に相当するものはありません。
 ですが、少年の中に潜む竜は少年の無意識であり自我の影です。自我の確立とともに、少年はいつか強い力を持つことになるでしょう。

 それでは、〈君〉たちの行く先に竜の加護あらんことを。

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