見よ、天を衝くインの塔 ver1.00版エンディング集

初期版スクショ

※初期版スクリーンショット

ver1.00版エンディング集について

『見よ、天を衝くインの塔』初期版は、現在公開しているものとかなりエンディングが違いました。
現在公開版の方が間違いなく出来は良いのですが……(勇者もだいぶ嫌なヤツですし)
初期版は初期版で好きという声もあったので、おまけとして、ここに置いておきます。

新旧エンディング対応表
条件現行版初期版
荷物を確認せずに進む<ED1・沼に沈む><ED1・沼に沈む>
開けてはいけない扉を開く<ED2・雨>なし
途中で『消』を使う<ED3・墜死>なし
途中でリタイア<ED4・勇者の裏方><ED2・勇者の裏方>
途中で『消』を使う<ED5・これはこれで幸せな日々><ED2・勇者の裏方>
途中でリタイア<ED6・勇者の弟子の弟子> <ED4・後方支援>
途中で『消』を使うなし<ED5・反骨の末>
頂上で『消』を使う<ED7・あの蝶のように>
<ED8・100年後に続く空>
<ED6・100年後に続く空>

129 『消』/落下

僕は『木』と融合させるために『消』の魔法を放った。
しかし『消』の文字は『木』には全く反応を示さず、足下の道へと吸い込まれていく――。

なんてことだ。この道も漢字魔法で作られたものだったのか。
僕は”勇者”からのメモの内容を思い出す。
『頂上に着くまでは”消”の魔法を使うな!』
そうか、そういうことだったのか! 僕は一体――何をやってるんだ?
足下が垂直の壁に変化し、体が宙に投げ出される。
眼下に広がる赤い沼に向かって、僕はなすすべも落下していく。
この高さだ、地面に激突した僕がどうなるかなんて、考えたくもない――。
[14]へ。

14 叱責

もうだめだと思った瞬間、体がふっと宙に浮いた。
柔らかい空気の膜のようなもので、受け止められる。漢字魔法とは別系統の魔法だ。
恐る恐る下を見る。
すると、”勇者”が眉間に深い皺を寄せてこちらを見上げていた。

「おい、新米……俺の言ったこと忘れただろ?
 『消』は頂上に着くまで使うなって言っただろうが!!!
 いいか! 言いつけちゃんとまもらねーと、簡単に死ぬんだよ、この仕事はよ!!!」
罵声が飛んでくる。
でも、確かにその通りだ。
もし勇者が受け止めてくれなければ、僕は墜死していたわけで――。

「てめえには、危険な仕事は任せられねーな!!!
 悪いことはいわねーから、てめーみたいなヤツは裏方に回っとけ。じゃねーと……すぐおっ死ぬぞ」
厳しい忠告が飛んでくる。
それに対して僕は――。
勇者の言う通りに裏方に回ることにした。[48]へ。
勇者に反発して叫んだ。[104]へ。

48 勇者の裏方

そして僕は”勇者の裏方”をやっている。
お金の計算、各所への通達、物資の補充、その他もろもろの雑務。
魔法戦士として現場に立ったことはない。
けれど僕があの時取った行動からすると、これが適任だったのだろうな――と思う。

これはこれで重要な仕事だと思う。
仕事に対する誇りもある。
僕に向いている、とも思う。

しかし、古傷が痛むように、たまに想像してしまうんだ。
あの時違う行動を取っていたなら何か違っていたのだろうか、と。
もしかすると裏方では見えなかった景色があったのかもしれない、と。

けれどもそれは起きなかった。
適材適所。これでいいんだ。

<ED2・勇者の裏方>

104 反骨の末

勇者にたてついた僕は骨があるってことで、なぜかその後、勇者と行動を共にすることになった。
でもその代償は大きかった。
今考えておけば、勇者の言う通り、裏方に回っておけば良かったんだ。

今僕は、さらに南方にいる。
朱殷台なんて比較にならないほどの激戦地だ。
僕は――ここで大きなミスをした。
うっかり人のの言うことを聞かない癖が最悪のタイミングで出たんだ。
「これだけはやるな」と言われたことを忘れたために周りは包囲され、蟻の這い出る隙間もない。
助けなければいけない人たちも巻き添えだ。大失態だ。

僕たちは、ここで全滅するだろう。
こんなことなら、あそこで反抗なんてしないで諦めておけば良かったんだ。
そうすれば、こんなことには――。

<ED5・反骨の末>

79 で、どこまで行けたんだ? ※『99 リタイア』からジャンプ

「骨のある奴だと思ってたんだがなあ……このへっぽこ!!
 新米とはいえ期待のホープなんだから、もうちっと粘って欲しかったんだぜ」
勇者はにやにやと笑っている。
途中でリタイアするのは織り込み済みだったようだ。性格が悪い。 「で? ……どこまで行けた?」
頂上まで辿り着いた→[138]へ。
116より上→[82]へ。
それ以下→[44]へ。

138 がんばりだけは評価してやる

頂上までたどり着けたと僕が報告すると、勇者は「ほほう」と感心したような声を漏らした。

「とりあえず――俺の言うことを聞くだけのオツムはあったってこった。
 俺だったら10歳の時にでも完璧にこなしてただろうけど、俺と違って新米は凡人だからな!
   まっ、しかたねー!! がんばりだけは評価してやるか!!!」

恩着せがましい物言いとともに、肩を強く叩かれる。
そして、続いた言葉は意外なことに、
「新米、俺の仲間の魔法使いに弟子入りしろ。
 腕が上がったら、控えで使ってやってもいいぜ」
――というものだった。
[126]へ。

126 後方支援

というわけで、今僕は、勇者の仲間のところで実地訓練を受けている。
といっても、やってる事といえば後方支援だ。
『消』の魔法を使うために一時的に呼び出されたり、攻撃の手数が足りないときに駆り出されたり。

やりがいは、ある。
食いっぱぐれないのも、良い。
でもたまに古傷がうずくように思い出すのだ。
あの時最後までやり遂げていたら、もう少し違った風景が見られたのではないか、と。
<ED4・後方支援>

82 見限り

「はぁ? そこまで行ったならほぼ終わってんじゃねーか!!
 なんで諦めんだよ! 馬鹿かてめえ!!!」

正直に答えた僕に、勇者の罵声が飛んでくる。
言葉はきついが顔は笑ったままだ。本気で怒っているワケではないらしい。
しかし――

「見所はあるけどよー、その程度の根性じゃソロで何か任せるってのはムリムリのムリだな!
 知り合いを紹介しておくから、新米は徒党を組んで俺の後始末でもやってるんだな!」

続いた言葉からは、僕のことを見限ったという事が伝わってきた。
かすかに聞こえた「使えるかと思ったんだが……代わりをさがさねーとな」というつぶやきが胸に刺さる。
僕は失敗したのだ。
[85]へ。

85 明日に種を撒く者

というわけで、僕は勇者の知り合いのところに押しつけられた。
『後始末』と勇者はいうけれど、これはこれで重要な仕事だ。
勇者が壊したものを直したり、変化させてしまったものを良い感じに調整したり。
後はぐちゃぐちゃにしてしまった人間関係をうまく取り持ったりとか、そんなことをしている。

僕の仕事は、勇者が耕したあとの畑に種を植えるようなものだ。 正直、華はない。とても地味な仕事だ。
だけど、勇者が活躍することよりも、こちらの方が重要なのでは?と最近では思っている。
誇りはある。やりがいもある。
けどたまに、古傷が痛むように思い返すことがあるのだ。

――あの時諦めていなければ、どんな景色が見えていただろうって。

<ED3・明日に種を撒く者>

44 落胆

僕の話を聞くと、勇者は肩を落として大きくため息をついた。
頭を抱えて、ふるふると頭を振る。
落胆させたのは間違いないようだ。

「新米……いくらなんでも諦めが早すぎだぜ……。
 てめえ、まったくこの仕事向いてねーわ。
 悪いこといわねーから、裏方に回っとけ」

勇者は僕に背を向けた。
そして――僕がいくら追いかけようと二度とこちらを振り向くことはなかった。
[48]へ。

152 崩壊 ※最新版とほぼ同じですが、初期版では分岐がありませんでした

塔の崩壊が始まった。
この塔は、大量の蛹によって形作られていたのだ。
その中身が居なくなってしまったのだから、自壊するのは自明の理だ。

――信号弾!

僕は傾きつつある塔の上から信号弾を発射した。
ひゅるひゅるという音と共に、虹色の煙が打ち上がる。
けれど――間に合うのだろうか?

塔の中がからバキバキという音がする。
きしみ、大きく揺れ始めた塔の頂上に、僕は必死にしがみつく。

まさか、勇者はこれを見越して僕を雇ったのか?
学生の一人ぐらい犠牲になってもどうでもいいと――。
いや、そんな事は無いはずだ。勇者は万民を救う者のはずなのだから。

塔の崩壊は止まらない。
ついに塔の外壁が砕け散り、僕は地表に向かって落下する――!
[154]>へ。

154 女王蝶

このまま地表に叩きつけられて死ぬのを待つだけかと思った僕を助けてくれたのは、意外なものだった。
僕の体を受け止める、むにむにとした何か。
それは、家一軒ほどの大きさの巨大な蝶の背中だった。
燦めく紫の羽根。台地に争いをもたらしていた蝶と同じ。
違う所は、背中にちかちかと光がまたたいている所だった。 『消の魔法を使ってくれたのはあなたね?』
頭の中に直接不思議な声が響いてきた。
声の主は僕の乗る巨蝶だった。
『おかげで、羽化することができたわ。ありがとう、漢字魔法使い』

巨大な蝶は、女王蝶と名乗った。
同族を呼ぶ力をもつ彼女は、”イン”の魔法使いによって捕らえられ、長いことこの塔に縛り付けられていたのだという。
インは引。
そして因。
それらが無くなった今、この土地の蝶たちは解放され、思い思いの所へ飛んでいけるのだ。

『振り落とされないようにしっかり捕まっていて』
そう言って蝶は大きく羽ばたいた。夕暮れの空を、インの塔よりも高く。

眼下に見えるインの塔の残骸を僕は見る。
赤い沼の真ん中に立つ、有機的な表面がなくなってつるりとした石柱。
その姿は、まるで朱肉の中に立つ印鑑。
なるほど、インの塔だ。
僕はくすりと笑った。
[160]へ。

160 100年後に続く空

やがて、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
「よう、新米! 大丈夫だったか?」
とニヤニヤしながら声をかけてくる。小型の飛竜に乗った勇者だ。
「危うく墜落死するところだったんですよ!」と僕は抗議する。
勇者は気にする様子もなく、肩を揺らして笑った。 「すまねーな! こっちも忙しくてよ!
 ま、女王がいるから俺がいなくても大丈夫だと踏んではいたんだがな!!!」
本当だろうか。でも女王蝶のおかげで命が助かったのは本当だ。
これも勇者の計算だ、と信じておくことにしよう。

僕たちは夕暮れの空を並走する。
赤い大地が徐々に夜の青に染まっていく。
「この地は、もともと肥沃な森だったって話だ」
勇者がぽつりと語り出した。
「それをあのインの塔が変えちまってたんだよな。
 あれは蝶を留めておくだけじゃねえ。
 周囲の植物の力――”葉”まで吸って、より沢山の蝶を生みだすように変えていた」
「なんのために?」
「知るかよ。きっと短絡的に豊かにしようとしたんだろ?
 それが周りを枯らして、長期的に争いの発端になるなんざ、想像もせずにな!」

「でもな、そりゃ間違いだったんだよ。おかげで悪循環の袋小路だ。
 そのまま維持すりゃにっちもさっちもいかねー! 
 それをぶっ壊すのが――俺らがやることってわけだ」
勇者は笑った。僕は問う。 「ぶっ壊して、そして? この土地はどうなるんですか?」
「それをやるのはな、あいつらの仕事」
勇者は崖の辺りを指さした。そこには学者たちの一団がいた。
「農学者に、政治学者に、福祉とかなんとかいうやつら。
 あいつらを動きやすくするのが、究極的に言えば俺の仕事ってヤツだな」

「勇者なんか、つえーだけの人間だぜ。
 殺す! 倒す! 破壊する! それぐらいしか出来ることがねえ。
 でも、それでも――上手い具合にやれば、なんとかなるもんだ。
 ぶっ壊すだけしか能がねーヤツも、使いようなんだよ、新米」
懐かしむような口調。
その時、なぜ僕がこの人に雇われたのか、なんとなく分かったような気がした。
僕は言った。
「また、仕事をくれませんか。勇者さん。次はもっと上手く――ぶっ壊せると思います。
 今回、僕、本当に”消”ぐらいしか使ってないんですからね!」
「じゃあまたなんか振ってやるよ!
 今度は――ただの俺の荷物持ちかもしれねーけどな!」
勇者の笑い声とともに竜が飛ぶ。それを追って、僕の乗った蝶も飛ぶ。
眼下に広がる大地が青く染まり、昼と夜の境目を通り過ぎる瞬間――。
その時、僕には確かに見えたのだ。
蝶の見せる幻覚ではなく、確信として。
自分のやった行動が未来へと繋がる様を。
そしてこの赤い痩せた台地が、100年後、青々とした草の生い茂る緑の大地になっている様を――!

<ED6・100年後に続く空>